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suzu@kick diary

とあるキックボクサーの九転び十一起きな物語が現在、進行中です。

『ZERO』

『ZERO』とは『ピンポン』や『鉄コン筋クリート』などで知られている
松本大洋の初期の作品で、五島雅というボクサーが主人公の漫画です。

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五島は比類なきボクシングのチャンピオン。
何度も防衛して名声も富も手にしました。でも、心の底から笑うことはないのです。

ページにちりばめられているのは深い孤独と悲哀です。
そしてそこから発せられる狂気。

強すぎるがゆえに孤独。その孤独が強さをさらに増幅させていきます。

彼が欲しているのは自分と遊んでくれる、頑丈で壊れることのないオモチャ。
つまり、決して倒れることのないボクサーなのです。

「ホラね、、みんなすぐ壊れちゃうんだよ。。。」
子どもの頃からなんでも壊してしまう五島に
大人は畏怖を覚えて彼を遠ざけたのです。
ずっと一人。友達と呼べるものなく大人になり
ボクシングにのめりこんでいきました。

上巻下巻の2部構成ですが
下巻では一冊まるごと使って一つの試合が描写されています。

その試合の対戦相手はメキシカンのトラビス。
五島は期待します。彼なら壊れずに自分と遊んでくれるのではないかと。。

トラビスの強さは群を抜き、誰もが彼に恐怖をいだいていました。
そして何よりも五島はトラビスに自分と同じ狂気の匂いを感じとったのです。

試合のなかで五島はトラビスを狂気の世界に誘い込もうとします。
忠実にセコンドの指示を守り、勝つための闘い方をするトラビスです。
しかし、徐々にトラビスは五島の世界と対峙していくなかで
自分の本来の姿はこれではないと気づかされていきます。
そしてトラビスは己を解放すことに成功し五島に襲い掛かりました。

ここから試合は更にヒートアップし、二人は不気味な笑みを浮かべながら
心底楽しんでいるかのように拳を壮絶に打ち合います。
初めて五島は本気で遊んでくれる相手をみつけたのです。
それは、五島にとっては待ち焦がれていた友達なのでした。
もっと高いところへとトラビスをいざないます。

でも、トラビスでさえも結果的に彼の高みには到達できなかったのです。

トラビスは五島の狂気の世界に呑み込まれてしまう恐怖に慄いたのでした。
五島は、手数を緩めることなく狂気を爆発させてトラビスを圧倒し、
試合は五島の勝利で終わりました。

「うおおお。」「うおおおお。」

五島は一人、リングで雄叫びをあげました。
その叫びは勝利者のそれとは異なる切実なものでした。

「うおおおおお。」


身を削るような雄叫びをあげながら五島は淡い希望を心でつぶやきます。

「花がいい、、
    次に産まれるとしたら花がいい、、、。」

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限られた世界でしか生きていくことができない
人間の哀切な思いがつまっています。