suzu@kick diary

とあるキックボクサーの九転び十一起きな物語が現在、進行中です。

あいつはいつも僕の前を走っている

普段、あいつという人の呼び方は嫌いなので、誰かを呼ぶ時にあいつという人称形式は絶対に使わない。

でも、例外があって、あいつに関してだけは別だ。
言葉を探そうとしても、あいつにはあいつ以外の他の適当な呼び方が見つからないのだ。
あいつとの付き合いは決して仲の良い関係性の上に築かれたものではないのだから。
親しみなんてとてもじゃないがそこには込められない。

そう、あいつはいつだって僕の前を走っている。
僕が息をぜーはーさせて、苦しい表情で足を前に運ぶ力が尽きかけると、あいつは「どうした、もう終わりか?」と言いたげなそぶりをみせて僕を振り返る。
呼吸は落ち着いて、汗ひとつかかずに髪も乱れてもいない。

この間なんかはもっと早くこいよと笑みを浮かべて手招きもしやがった。
それが余計に、僕をいらだたせる。
ちくしょうとなって、またあいつについていこうとむきになって、スピードをあげる。
でも、必死で追いつこうとしても、あいつのスピードについていくのがしんどくなり、僕は追いつくことができない。
進む力をうしなった足をそこで止めて、手をひざにつき、あえぐだけだ。
上目のままであいつをみると、わざわざ僕のところまで戻ってきて、首をふる。

走るときだけじゃない、サンドバックでラッシュするときも、補強をしているときも、いつもあいつは「どうした、もう終わりか?」とほくそ笑む。

僕のすることなすことにおいて、そばでいつも見ている。
そして僕を見下す。それが悔しくて、いつもあいつに憎悪の眼差しを向けてきた。
僕はあいつに近づくことはできたのか、距離はどれくらい縮まったのだろうか、と自分への問いかけは終わらない。

いつも追いつくことができないでいるあいつ。
そして明日もまた僕の前を走るのだ。

僕はあいつを超えなければならない。
あいつは自分自身でもあるのだから。